信託契約をしておくと認知症でも対策できる
後見人をつけると節税対策できない
相続人関係図
家族と相続の状況
父親は要介護、母親は認知症気味
豊島さんの父親は家で転倒して歩くことが困難になり、要介護となりました。いまは介護施設に入所しています。母親は自宅で生活をしているものの認知症気味です。
このままでは大変になると感じて、将来の相続で困らないようになにをすればいいのか、相談に来られました。
豊島さんから状況を聞いてお勧めしたのは、今後のことを父親に代わって信託された長男が実行できるという契約をしておくことです。豊島さんは両親の様子から、すぐに相続にはならないかもしれず、長くなれば費用の捻出に苦慮すると感じ、「民事信託」が必要だと決断されました。両親と妹にも説明し、進めようということになって、後日、契約が整いました。契約日には家族4人が揃い、父親の意思確認をしながら、円満に手続きをすることができ、将来の不安を払拭でき、家族の協力体制もとれるようになりました。
豊島さんの財産
信託契約を勧めた理由(1)
後の生活資金が不安。不動産でめどをつける
相続税がかかるかどうか、Quick診断をすると、自宅の土地が200坪あり、1億2,530万円の評価になることが判明。相続税がかかる財産だとわかりました。ですが、預金は300万円ほどで余裕はありません。相続になったら1,200万円の生命保険が下りるのですが、それまでは手元に入りません。こうした現状では現金が足りなくなるのではという不安があります。
信託契約を勧めた理由(2)
後見人をつけると節税対策ができない
父親の財産の大部分が自宅不動産です。これを活用しない手はありませんが、まだ母親が住んでいますので、空家になったときに売却することが望ましいところ。そのときに父親が認知症で意思確認がとれないと手続きが大変になります。
高齢になると成年後見人をつけて財産を管理する方法もありますが、それでは母親の生活費や相続対策ができません。父親は86歳でまだ認知症と診断されてはいませんが、今後急に症状が進むこともありますので、意思がはっきりしているうちに後見人ではなく、信託契約をしておくことで、母親や子どもたちの不安は解消されます。
ここがポイント
- 父親が認知症になっても長男が不動産を処分や活用、節税対策などができる
- 収益は父親のものとなり両親の生活費に充てられるため、老後破綻は避けられる
- 母親が信託契約を継承することができ、母親が認知症になっても不安はない
一口メモ
【民事信託でできること】
- 家が空家になったときに売却して不動産を現金に換える…老後資金が捻出できる
- 現金のままでは相続税がかかるため、賃貸不動産購入…相続税を節税しながら、家賃収入が入り、施設などの費用に充てられる
- 余分な現金は子どもや孫に贈与する…相続税を節税しながら財産の前倒しができる
長期的な対策には信託契約で対応できる賃貸事業運営者
相続も賃貸事業も民事信託で万全に
相続人関係図
家族と相続の状況
長男家族が同居で、跡取り
藤田さんの父親は農家の長男で、家督相続の時代に代々の土地を1人で相続しました。その父親は15年前に亡くなり、母親と藤田さんが土地を引き継ぎ、守ってきました。姉は資産家に嫁いでいますので、財産はいらないと藤田さんに譲ってくれました。
配偶者の特例もあり、相続税は4億円を超え、藤田さんが相続した土地を売却して納税したのでした。それでもまだ、多くの土地があり、相続は悩みの種です。藤田さんは父親が亡くなってから会社員をやめて、自分や母親が所有する不動産の管理をするための法人の代表として、資産管理をしています。母親が80代となり、いよいよ相続対策が必要だとセミナーに参加して相談に来られました。
父親の財産
信託契約を勧めた理由(1)
財産が多く計画的な相続対策が必要
母親の財産には多くの不動産があり、大型店の駐車場に貸している土地2カ所、アパートなどがあり、不動産だけで5億円以上の財産になります。預金も2億円以上あり、相続税のQuick診断をすると、納税額は3億円近いことが判明しました。
「相続プラン」で計画的な相続対策の提案をしましたが、財産が多いだけに実現するには長期計画が必要です。
信託契約を勧めた理由(2)
トラブルを避け、賃貸事業の運営者を明確にする
アパートも老朽化が進み、建替も検討しなければなりません。その間、母親が認知になってしまうと対策が進まないたため、今後、子どもが意思決定していけるようにしたいところ。藤田さんと姉の中は良好で、現在はなんら問題がないという説明でしたが、将来の相続では争いがないとは断言できません。争いに発展すると小規模宅地等の特例が使えませんので、多くの相続税を払って、兄弟姉妹が絶縁になるようなこともあり得ることです。そうした遺産分割のトラブルを避けるためにも、賃貸事業の運営者を決めておくことが望ましいと判断しました。
信託契約しておかないと困ること
- 母親の認知症が進むと不動産対策の購入などができない
- アパートの建替の時期に認知症だと借入もできない
- このままでは相続税の納税資金が不足している
信託の仕組み(例)
認知症のお悩み解決策
ここがポイント
- 母親が認知症になっても計画的に節税対策に取り組める体制が必要
- 相続対策は、複数の対策を計画的に組み合わせる
- 長期の賃貸事業には状況の変化に対応できる体制が必要
一口メモ
【遺言がないと困ること】
- 大規模修繕や建替の時期を逃さず取り組める…賃貸事業を停滞させない
- 節税対策を継続できる…相続税を節税しながら、収益も確保できる
- 子どもや孫に贈与できる…信託財産や不動産、現金を前渡しができる