子どもがいない夫婦は遺言書が必要
相続人は互いの兄弟姉妹になる
相続人関係図
家族と相続の状況
同級生夫婦で、共稼ぎ。子どもには恵まれなかった
坂本さんは国立大学の大学院の修士課程で学び、博士号を取得しました。現在は私立大学の教授として毎日学生に接しています。学生だけでなく社会人教育にも力を注いでおり、セミナーで活躍するとともに、書籍も出版しています。坂本さんご夫婦は高校の同級生で、知り合ってから40年近くなります。子どもに恵まれなかったこともあり、互いに助け合っていまの生活を築いてきました。
実家を離れて独立したあと、現在の住まいを購入し、その後、妻が仕事場にしているマンションも購入しましたが、両方とも夫婦の共有名義です。坂本さんの妻もファッション関係の仕事を持っており、ずっと仕事をしてきました。子どもがいれば違った生活だったかもしれませんが、そのお陰で2カ所の不動産を買うことができたのです。
2人ともまだ50代ですが、そろそろ先のことも考えないといけない年代になりました。夫婦で築いた財産は、自分の意思できちんとしておきたいという気持ちになり、ご夫婦で相談に来られました。坂本さん夫婦はともに弟がいます。
坂本さんの財産
遺言の内容
遺言者:坂本さん(妻も同内容を別に作成)
遺言書をつくる理由
配偶者の兄弟姉妹に財産を分けるのは理不尽。争いも避けたい
坂本さん夫婦のように、子どもがいない場合は、どちらかが亡くなったとき、相続の権利は、亡くなった人の親や兄弟姉妹も及びます。親から相続した財産であればまだわからなくもないのですが、2人で少しずつ築いた財産についても法律だからと言って助けてもらったわけでもない兄弟姉妹に相続させることは納得しがたい気持ちです。
自分の兄弟姉妹ならまだいいのですが、配偶者の兄弟姉妹となるとそもそも他人ですから、感情論にもなりかねません。それを避けたいのが2人の本心です。
そこで坂本さん夫婦は、互いに「全財産を配偶者に相続させる」とした公正証書遺言を作成しました。これで相続になっても相手の兄弟に気を遣わなくてもよくなったと、ほっとしたとのこと。相手の兄弟と財産の話をすることは避けたいというところでしょう。
ここがポイント
- 子どものいない夫婦は遺言書が必須の時代。話し合って同時につくっておくようにしたい
- 遺言書があれば兄弟姉妹と話し合うことなく相続手続きができる
- 兄弟姉妹には遺留分の請求権がない
一口メモ
【遺言がないと困ること】
- 子どもがいない夫婦の相続人は配偶者と親あるいは兄弟姉妹となる
- 自分で築いた財産でも遺言がないと配偶者が全部を相続できない
- 夫婦で築いた財産でも兄弟姉妹に明らかにして分割が必要になる
海外の息子よりも世話をしてくれる長女に託したい
妹は兄に勝てないという力関係を遺言書でカバー
相続人関係図
家族と相続の状況
父は単身で生活。海外生活をする長男には頼れない。
前川さんは妻に先立たれ、現在独り暮らしです。前川さんの年代では、長男が親と同居して、面倒を看るのが当たり前の時代でしたが、長男は家族とともに海外で生活しており、永住権も取得しているので、日本に帰る気持ちはなさそうです。
そうしたことで、自ずと、娘に助けられている状況です。他県に嫁いでいますが、子育ての最中で忙しいときでも、前川さんを心配し、定期的に様子を見に帰ってくれます。
前川さんの財産
遺言書をつくる理由(1)
長男は権利意識が強い
妻は急な山の事故で亡くなったため、遺言はありませんでした。妻の財産は預貯金だけで、相続税の申告は不要でしたが、それでも預貯金の名義を替える相続の手続きが必要です。前川さんだけでなく子ども2人の書類も必要になり、特に海外にいる長男には領事館に行ってサイン証明書をもらわないといけないなど大変な思いをしました。自分のときは苦労を掛けたくないという気持ちから、自分が公正証書遺言を作成しておくことで、相続手続をスムーズに進められるようにしておきたいと考えました。
遺言書をつくる理由(2)
苦労せずに相続手続きができるようにしておきたい
妻が亡くなったとき、長男は葬儀にも参列しなかったのに、財産については法定割合をもらうと言って折れずに、結局、主張した預金の4分の1を持って帰りました。この姿を見ているので、自分が亡くなったときには、同居も世話もしなかった長男が、財産の半分を要求することは明らかです。娘は老後の世話やお墓の管理をすると言ってくれていますので、老後は娘が頼りです。なるべく長女に財産が残るような配分として遺言書をつくっておかないとやさしい娘は兄に勝てないと思い、娘を守るためにも遺言書が必要だと思いました。
遺言の内容
遺言者:坂本さん(妻も同内容を別に作成)
ここがポイント
- 身の回りの世話をする長女に財産を残すには遺言を残しておくことが必要
- 遺言執行者を指定しておけば、遺言の正本で相続手続ができる
- 長男には遺留分に抵触しない範囲で、現金を残す配慮をする
一口メモ
【遺言がないと困ること】
- 長男は法定相続分の2分の1の財産を相続するつもりでいる
- 分割協議になれば長女に財産を多く残すことはかなわない
- 妹である長女は兄の理屈には勝てないため、遺言がないと勝ち目がない